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大阪高等裁判所 昭和62年(ラ)197号 決定 1987年8月06日

抗告人 三井不動産ローン保証株式会社

代表者代表取締役 新井昭一

主文

原決定を取消す。

本件を大阪地方裁判所堺支部に差戻す。

理由

1  本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

本件記録によれば、本件公正証書正本は、請求債権について本旨条項として「昭和六〇年九月一〇日債権者三井不動産ローン保証株式会社と債務者山下政彦は別紙編綴の求償債務の支払に関する契約書記載の条項どおりの契約を締結した。」との記載をなし、給付請求権の存在及びその具体的内容についてはすべて添付書面の記載に委ねていること、その添付書面は別紙のとおりであって、行間も不揃いであり、行と行の境及び欄内と欄外を区別するための罫線が引かれておらず(公証人法施行規則八条参照)、接続すべき字行の空白部分に墨線をもって接続させる処置もとられていない(公証人法四〇条二項、三七条二項)ことが認められる。

これに対し、原決定は、添付書面は公証人法四〇条二項、三七条二項に定める方式を全く充していないから、上記公証証書は執行証書たる効力を有しないと判断した。

およそ、執行証書は、その方式及び作成手続が極めて厳正に法定され、これが正確に履行されることによりその正当性が担保され、かつ執行力が付与されるものであることはいうまでもない(民事執行法二二条五号)。そして、公正証書に他の書面を引用及び添付することは公証人法の予定するところであるが(四〇条二項、三項)、右添付書面についても、変造防止のため罫線、接続墨線を要するのは当然である。

しかしながら、添付書面に罫線、接続墨線が引かれていないという方式違反のみをもって執行証書としての効力を有しないとまでいいうる程の重大な法規違反があるとはいえない(欄内、欄外の罫線がなく、接続墨線が引かれていないため、行の空白部分、欄外に字句を追加して変造するおそれがないとはいえないが、これは公正証書だけの問題ではなく、白紙にタイプ印書される判決正本にあっても全く同様である)。

そうだとすると、上記の点をもって民事執行法二二条五号所定の執行証書としての効力を有しないとした原決定は不当であるから、原決定を取消したうえ、本件申立についてその審理のため本件を原審の大阪地方裁判所堺支部に差戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 阪井昱朗 若林諒)

<以下省略>

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